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cinema note*

観た映画のことをつらつらと。グザヴィエ・ドラン、フランソワ・オゾン、ペドロ・アルモドバルなどクィア映画に傾倒しています。

【ヴェトナム戦争映画遊泳】

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 ベトナム戦争の映画を観る機会があったので一度まとめてみた。まず、決定的に他の戦争映画と異なるのは、朝鮮戦争第二次世界大戦映画など、ハリウッド映画産業は戦時中からその戦争を描いた映画を量産し始めるのが常套手段であったのに対し、ベトナム戦争に関してはすぐには作られなかったこと。その特殊状況自体がベトナム戦争における政治的問題を色濃く反映している。らしい。

 『ディア・ハンター 』(マイケルチミノ、1978年)は、早い段階でベトナム戦争を主題として扱った映画として知られているが、残虐なベトナム兵と傷付いたアメリカ兵という図式を強固に描くことによって、ベトナム戦争の事実そのもの、とりわけアメリカの敗北という事実からは目を背けているように見える。『地獄の黙示録』(フランシス・フォード・コッポラ、1979年)で、コッポラはベトナム及びベトナム戦争における残虐性や狂気を描いた。そこには未開な土地や未知なるものに対する戸惑いや恐怖が満ち溢れていた。 『フルメタル・ジャケット』(スタンリー・キューブリック、1987年)では、一般の若者が兵士へと成長していく場である訓練基地に着眼している。『映画で読むアメリカ』で長坂寿久は本作で初めてアメリカベトナム戦争映画史において、ベトナム兵の心をアメリカ兵の心に通わせ、未知なるアジア人ではなく人間としてのベトナム人をアメリカ人が見た映画であると述べているが、この半年後に公開の諧謔に富んだ快作『グッドモーニング,ベトナム』(バリー・レヴィンソン、1987年)では、更にベトナム人が生身の人間として登場し、ベトナム人とアメリカ人の交流が主題として掲げられる。ここではベトナム戦争というものが人と人との絆までもを分断してしまう悲劇として描かれている。この年は「見えない敵」であったベトナム人が明確に可視化した年である。 また、 ベトナム戦争映画は別名ジャングルジャンルとも呼ばれる。鬱蒼とした森の中で見えない敵と戦っている=誰と戦っているかわからないアメリカ兵の混乱状態を表したのがオリヴァー・ストーン監督による『プラトーン』(オリヴァー・ストーン、1986年)である。この映画は、ベトナム戦争の意義を問いかける主人公のモノローグで幕を閉じる。そこには戦時中に戦ったベトナム兵士達への敬意や賞賛と共に、ベトナム戦争は一体アメリカ人にとって何だったのか、という自問自答が垣間見える。オリヴァー・ストーンベトナム戦争映画を三部作として描いているが、その二作目である『7月4日に生まれて』(オリヴァー・ストーン、1989年)は、祖国の為という大義の元戦争に志願した若者が下半身付随になって帰国したのち、反戦運動に加担していくことになる過程を描いた映画である。主人公は下半身付随になることで男性性を去勢されるのだが、これはベトナム戦争によるアメリカの自尊心の欠落を象徴する。つまり、主人公自身がアメリカという国をそのまま体現しているのである。それは主人公が7月4日生まれに設定されていることからも明らかだろう。この映画ではベトナム戦争に対して深く内省的であり、反戦主義的な立場を取っている。一方、三部作最後となる『天と地』(オリヴァー・ストーン、1993年)は、ベトナム人女性の目線からベトナム戦争を描き出した稀有な作品である。レ・リー・ヘイスリップの自叙伝小説の映像化であり、実際に彼女が経験したことが基になっている。一人のベトナム人女性がベトナム戦争中に邂逅したアメリカ兵と結婚し渡米することによって、第三世界的な女性が先進国に順応しながら逞しく独立した女性へと変容していく様子に焦点を当てている点でフェミニズム的な映画ともいえるが、この作品においては、いわばベトナム(人女性)とアメリカ(人男性)の結婚を描くことを通じて中立的な立場をとっている。懸隔した異文化間、異宗教間の撞着を経てそれでも今作において「復讐する相手が不在」であると言うストーンの言葉通り、彼女自身も全てを赦し、受け入れて静かに終わる。

 このように、ベトナム戦争をどう捉えるべきかという彷徨から始まり、忸怩たる内心を曝け出し、最終的に赦しという主題に辿り着いたオリヴァー・ストーン監督のように、ベトナム戦争という一つの事象は、錚々たる映画作家達によって変奏されながら多角的に描かれてきた。その描かれ方は多種多様でどの作品も非常に興味深い。

 

参考文献

映画で読むアメリカ (朝日文庫)

映画ジャンル論―ハリウッド映画史の多様なる芸術主義

1980年代の映画には僕たちの青春がある (キネマ旬報ムック)